「影」

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今となっては憎い女であった。
美しい顔でかぎりない偽りを言った、
いくたびも自分を裏切った女であった、
男はなんの未練もなく、おもひきり力を籠めて、
最後の「さよなら」を言った。

けれどその瞬間、男は、
真昼のクロバーの野路に落ちた
女の黒い影を見た。
それはむかし、純で優しかったころの
彼女の姿をなほそのままに見せていた。

男の口で「さよなら」を言ひながら
その影のうへ二熱い涙をながした。

        西条八十
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Commented by 林ナオキ at 2012-09-20 03:57 x
お久しぶりです。いい詩、いい絵です。
Commented by bamboo7771 at 2012-09-20 15:24
林さん、お元気ですか?
ありがとうございます!
とても気になる詩でした。
by bamboo7771 | 2012-06-04 23:41 | personal work | Comments(2)